谷川俊太郎さんは2024年11月13日に92歳で亡くなられました。スタッフ一同、残念でなりません。しかし2008年の開館に際して俊太郎さんが作ってくださった組詩「アリオスに寄せて」は開館から16年が経った今も、そしてこれからも「わたしたちの合言葉」として大切に、でももっともっと使い倒して行こうと思っています。本当にありがとうございました。
いまここ
いつでも「いま」しかない
どこにも「ここ」しかない
そのために過去に学び
そのために未来を夢見て
生きる
人知れず咲いている一輪の野花とともに
ただよいながら形を変えてゆく雲とともに
うつろいやまない人々のココロとカラダとともに
いまここで踊る身体
いまここで奏でられる音楽
いまここで語られる言葉
舞台に 舞台から
土足で上がるのだ 舞台に
田んぼと劇場を地続きにするのだ
足裏は知っている
板の下 奈落の下 コンクリートの下
人々の意識の下に この星のマグマがたぎっていることを
出て行くのだ 舞台から
風神雷神となって創造の嵐を起こすのだ
タマシイは知っている
目に見えないもの 耳に聞こえないもの
コトバにならないものが 誰にでもひそんでいることを
ハコのうた
からっぽはすばらしい
なんでも いれることができるから
でもいつまでも ためておかない
またからっぽにして ハコはまつ
あたらしいもの たのしいもの
ハコはいきて こきゅうしている
ハコのなかで ひとはうたう
ハコのなかで ひとはかたる
ハコのなかで ひとはおどる
ハコのなかは そととはちがう
わくわくどきどきはらはらさせる
ハコはいきて こきゅうしている
場
木の椅子に腰かけるのもいい
床にあぐらをかくのもいい
草の上に寝転ぶのもいい
そこにあなたの場ができるから
二人でお喋りするのもいい
何人かでパーティするのもいい
何百人かで耳をすますのもいい
そこにみんなの場ができるから
その場には見えない素粒子がいる
遺伝子がいる 光子がいる はるかな星雲がいる
そのおかげで私たちがいる
世界と肌を合わせて 宇宙に抱かれて
昼 海からのそよ風がアリオスを愛撫している
夜 月の光がアリオスにうすぎぬを着せる
朝 遠いやまなみにアリオスはあいさつしている
谷川俊太郎プロフィール
1931年東京生まれ。詩人。
1952年第一詩集『二十億光年の孤独』を刊行。 1962年「月火水木金土日の歌」で第四回日本レコード大賞作詞賞、 1975年『マザー・グースのうた』で日本翻訳文化賞、 1982年『日々の地図』で第34回読売文学賞、 1993年『世間知ラズ』で第1回萩原朔太郎賞、 2010年『トロムソコラージュ』で第1回鮎川信夫賞など、受賞・著書多数。 詩作のほか、絵本、エッセイ、翻訳、脚本、作詞など幅広く作品を発表。 近年では、詩を釣るiPhoneアプリ『谷川』や、 郵便で詩を送る『ポエメール』など、 詩の可能性を広げる新たな試みにも挑戦している。
※2024年11月13日逝去(享年92)
tupera tupera プロフィール
亀山達矢と中川敦子によるユニット。2002年より活動を開始する。絵本やイラストレーションをはじめ、工作、ワークショップ、舞台美術、アニメーション、雑貨など、様々な分野で幅広く活動している。絵本など、著書多数。海外でも様々な国で翻訳出版されている。NHK Eテレの工作番組「ノージーのひらめき工房」のアートディレクションも担当。京都造形芸術大学 こども芸術学科 客員教授。